「さがしもの」 角田光代さん

初投稿です😙

不定期で分野問わず、ビビッときたものやグッときたものをレビューしていきます。

 

今日は最近読んだ本「さがしもの」を紹介したいと思います。

「八日目の蝉」などで有名な作家、角田光代さんによる200Pちょっとの短編集になります。

 

最初に角田光代さんの作品を読んだ感想として、人の気持ちを描くのが上手な方、本を読むという行為自体に関しても色々考えを持っているという印象を持ちました。それでは、内容に移っていきます。

 

「さがしもの」は9つの短編から成り、それぞれが「本」をテーマに進んでいきます。全体を通した感想としては、ここに書かれた話は角田光代が実際に体験したんじゃないかな、と思うほどに、どの話も鮮明にその状況や雰囲気が感じられます。今回はその中でも本書を読むきっかけにもなった本書の最後の短編でもある「初バレンタイン」を紹介したいと思います。
 
まず、そのきっかけについてお話します。先日、地元の書店で心がじわっと優しくなるような本ないかな〜と探していたところ、帯で上白石萌音さんが勧めている本書が目に入りました(文学少女👩‍🎓、良い)。「さがしもの」とタイトルが全部ひらがなの所もいいなと思い目次を読んでみると短編集であることが分かり、特にその中の「初バレンタイン」という話が目に入りました。私は「初」という言葉に魅力を感じます。というのも、人間何事も馴れてしまうと物事の大切さを忘れてしまいがちです。初めてだからこその緊張や不安、達成感が存在します。初めて何かを成し遂げた話を聞くのはいつだって楽しいものです。今回、角田光代さんの描く「初」バレンタインがどのようなものか知りたくなり思わず購入しました。
きっかけから長くなってしまいましたが(笑)、内容と感想についてお話します。
 
主人公の中原千絵子は23年間の人生ではじめて彼氏ができる。彼氏は大学の一学年下。来るバレンタインデーに向けて千絵子は、チョコレートじゃ芸がない、と考え、あまり知られていない作家の、さらに知られていないデビュー作で、中学三年生の時に読み、後の自分の人生に大きな影響を与えた本を贈ろうと決める。しかし、いざ贈ろうと考えると本を贈るのは世界観を押し付けるみたいにとられないか、相手に響かなかったらどうしようとバレンタインデーまで悩みに悩む。
二月十四日当日、千絵子は結局本しか用意できずに迎えることになる。デート中の千絵子は彼氏からどう見られるかを気にして自分をうまく出せない。終いにはそれ風を装うためにアクセサリー屋に入り、店員のごり押しで彼氏に十八万七千円の指輪を買わせてしまう。夜ご飯で行った居酒屋でも周りのカップルがチョコを渡しているを見て、バックに忍ばせた本を渡せずにいる。結局、食事後に行ったラブホで本を渡すことになるのだが、相手の反応は悪く何とも言えないまま終わってしまう。それから時は経ち、今年三十歳になる千絵子はもちろんその頃の彼氏とはすぐに別れ、何度かの恋愛を重ね、今度結婚することになっている。夫と新居への引っ越しへの準備をしている途中、偶然例の本を見かける。そこで千絵子はこの本を読んだときに人生が変わったのではなく、その本を誰かのために選んだ時かもしれないと気付いて終わる。
 
私自身、初めて女の子にプレゼント時のことは今も覚えている。大学生ならどんなものを贈ればいいか、どのくらいのものが重いと思われないかなどを、ネットで血眼になって調べた。相手が喜んでくれるか、好みでないものだったらどうしようと考えに考え抜いた挙句決めたのを覚えている。誰かと本気で付き合って、その人のためを思って一生懸命に考える、そうすることで私自身大人に近づいたように感じる。自分中心の世界から、少し視野が広くなる瞬間だと思う。初、という言葉は貴重なもので世界観がグッと広がることが多い。
 
最後に、皆さんも何かを初めて経験するときにはその時の感情を忘れないよう大切にしていただきたい。